「……今日、なんかちがうね」
ふと、奏太くんがわたしをじっと見て言った。
すこしかがんだぶん、顔の距離が近づく。
ドキッ!
わたしはあわてて目をそらして、ソワソワと前髪をさわる。
「ほ、ほんと!? じつはこの服、ユキちゃんとリリアちゃんに相談にのってもらって選んだの」
こないだ、ふたりとでかけたとき、選んでもらった洋服。
今まで着たことない大人っぽい服だから、似合ってるかちょっと不安なんだ。
「ヘ……ヘンじゃないかな?」
勇気をだして聞いてみた。
おずおず、顔を上げて彼を見る。
すると――奏太くんは片手で口元をかくして、目を伏せた。
「……かわいい」
ボソッと、ちいさな声。
ワンテンポおくれて、わたしはビクッと肩をはねあげる。
(へっ!? い、今……「かわいい」って言った!?)
ぼんっ
顔がバクハツする。
「っ……」
うれしすぎて、声にならない。
両手で顔をおおって、身もだえする。
(よかった……この服着てきて……!)
あんなに気になってた前髪が、一瞬でどうでもよくなった。
ドキドキとスピードを上げる胸の鼓動を聞きつつ、ユキちゃんとリリアちゃんに心のなかで感謝する。
「…………」
「…………」
なんとなく、気恥ずかしくて。
ふたりしてだまりこむわたしたち。
聞きたいことも、話したいこともたくさんあるのに、声が出てこない。
このままだと、わたし、一生ここからうごけないかも。
そんな風に思ったとき、奏太くんが口をひらいた。
「いこっか――……一歌」
顔を上げると、茶色い瞳と目が合う。
ちょっぴり照れたようにはにかむ彼。
そっと、さしだされた右手。
「……うんっ!」
――きっと、一生忘れない。
ふたりがつきあって、はじめての待ち合わせ。
(おわり)
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こんにちは。秋元水香です。わたしは時間割男子の大ファンです!次の巻も楽しみにしていますが、お体にも気をつけてください。応援しています!