――トトくんとアタシの別れは、とつぜんだった。
幼稚園の卒園を目前にひかえた、急な引っ越し。
なにも知らずに登園してその事実を知ったアタシは、その日、大泣きして幼稚園を早退した。
帰りにママが買ってくれた大好きなアイスも、ぜんぜん味がしなくて。
なんだか、胸にぽっかりと穴があいたみたいだった。
自分でも気づかないうちに……アタシは、彼に恋をしていたんだ。
(……それが、七年も経っていきなり、ぜんぜんちがう姿で来られても。こまるっつーの……)
文句を言うかわりに、ため息をつく。
今思えば、アタシにとってあれは、相手に気持ちをつたえることができなかった、唯一の恋だった。
あのときの後悔から、「好きになったら告白は自分から」って決めて、ちゃんと実行もしてきたけど……。
ちくん
さっきからチクチクうずく、胸の痛み。
……この前、フラれたばっかだからかな。
もうすっかり、ふっきれたつもりになってたけど。
できれば、恋とかそういうの、しばらく考えたくも、思い出したくもなかった。
眉間にしわをよせてチラリと顔を見ると、水戸冬馬は、また親しげに笑いかけてくる。
「リリちゃんは変わんないね。すぐわかったよ」
ニコッと、白い歯。
――その瞬間。
どきん、と、
なぜか、心臓がはねた。
アタシはあわてて目をそらし、腕を組む。
「……その呼び方、やめて」
「えっ、そう? じゃあ、なんて呼べばいい?」
「川田でいいわよ。男子はだいたいそう呼ぶし」
「ふーん」
ふーん、って、なによ。
(……なんか、調子くるうなぁ)
イライラしながら、息をつく。
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