「あと、アタシ……変わったから」
そう、変わったの。
幼稚園のころの、気弱でトロくて泣き虫の「リリちゃん」は、もういない。
ちゃんと自分の意見も言えるし、オシャレだってする。
努力して、ぜんぶ自分で変えた。
強くなったんだ。
――アタシは、今のアタシが好き。
あのころのダメな自分のことは、もう思い出したくない。
「じゃあ、アタシ、これから行くとこあるから」
過去を断ち切るように、フイと顔をそむけて、歩きだす。
(もう、ほっといて)
そう、心の中で念じる。
……念じたところで、とは思うけど。
「おーい」
……ほら、やっぱり。
案の定、思いは届かず。
すかさず、うしろから気のぬけた声が追いかけてくる。
「おれ、またこっちもどってきたんだ! 四月から晴天中! リリちゃんもでしょ?」
チラッとふりかえると、水戸冬馬はブンブン手をふりながら、さけんでる。
まわりの人が、不思議そうに、アイツとアタシを見比べる。
……ハズいからやめてよ、マジで。
アタシはくるりと引き返し、ずんずんと水戸冬馬に迫る。
「二度と大声で話しかけないで」
ギロッと下からにらみつけるアタシに、彼はまた、ぱあっと、花が咲くみたいな笑顔をうかべる。
「オッケー! またよろしくね、リリちゃん!」
「だから、その呼び方やめてってば」
「おれのことは、トトくんって呼んでくれていいよ!」
「いやよ、もう子どもじゃないんだから」
「えー。じゃあ、『冬馬』で! 名字で呼ぶの、なんかよそよそしくて好きじゃないんだ」
「……あっそ」
もはや、怒る気もなくした。
アタシはやれやれと息をつき、携帯をとりだす。
「ほら、アタシの連絡先。今後、用があるならこっちに連絡して」
「えっ、いいの? やったー!」
「いい? 今後、まちがっても、道ばたで大声だして呼び止めたりしないでよね」
「オッケーオッケー!」
ウキウキ、はしゃぎながら、アタシの連絡先を登録する、冬馬。
(……ほんと、調子くるう)
ヘンなヤツ。
でも……本音を言うと、そんなに、嫌じゃない。
なんで、そんな風に思うんだろ。
自分で自分がわからなくて、なんだか、むしょうに腹が立つ。
「じゃ、引きとめてごめんね。またねー!」
ぶんぶん手を振り、去って行く背中。
ふわふわと風になびくくせっ毛は、今も昔も変わらない。
あれが、アタシの、「初恋」の人。
(おわり)
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